【書評】KAIZEN JOURNEY たった1人からはじめて「越境」するチームをつくるまで 市谷聡啓 新井剛著
ソフトウェア開発の仕事は大変だ。
毎日夜は遅いし、いつも炎上する。
それをなんとかしたいと思い、たった1人で行動を起こしてみた。しかし周りは誰も協力してくれない。そして挫折。やはり自分1人で開発現場をなんとかするなんて無理なのか?
あなたにも、そんな経験があるだろう。
この本は「ITエンジニアに読んで欲しい!技術書・ビジネス書大賞2019」の技術書部門ベスト10を受賞した人気の本だ。
著者は、ソフトウェア開発のコミュニティ「DevLOVE」を立ち上げた市谷聡啓氏と運営スタッフでもある新井剛氏。業界では有名なコミュニティだ。システム開発をしている多くのエンジニアが熱心に学んでいる。以前、私も参加して講演を拝聴させていただいたことがある。
プロローグ
第1部 一人から始める
第1話 会社を出ていく前にやっておくべきこと
第2話 自分から始める
第3話 一人で始めるふりかえり
第4話 一人で始めるタスクの見える化
第5話 明日を味方につける
第6話 境目を行き来する
第7話 二人ならもっと変えられる
第8話 二人から越境する
第2部 チームで強くなる
第9話 一人からチームへ
第10話 完成の基準をチームで合わせる
第11話 チームの向かうべき先を見据える
第12話 僕たちの仕事の流儀
第13話 お互いの期待を明らかにする
第14話 問題はありませんという問題
第15話 チームとプロダクトオーナーの境界
第16話 チームとリーダーの境界
第17話 チームと新しいメンバーの境界
第18話 チームのやり方を変える
第19話 チームの解散
第3部 みんなを巻き込む
第20話 新しいリーダーと、期待マネジメント
第21話 外からきたメンバーと、計画づくり
第22話 外部チームと、やり方をむきなおる
第23話 デザイナーと、共通の目標に向かう
第24話 視座を変えて、突破するための見方を得る
第25話 広さと深さで、プロダクトを見立てる
第26話 チームで共に越える
第27話 越境する開発
エピローグ
本書はソフトウェア開発の現場で起きた様々な改善の様子を、ストーリーと解説という形でわかりやすく紹介している。物語形式なのでとても読みやすく、著者の実体験をベースにしているところが特徴だ。
物語は入社三年目のソフトウェアエンジニアのぼやきから始まる。
『現場のレベル感はひどく低い。いつもプロジェクトは炎上していて、目論見通りに終わることはまずない。メンバーの士気は低くて、プロジェクトの最初からたいていやる気がない。そんな感じだから仕事はうまくいかず、約束されていたかのように燃え盛り、それがまたメンバーの気持ちを挫いていく。ひどい循環だ。』
あなたの現場も、こんな感じではないだろうか。
そんな悩みを抱える主人公が、社外の勉強会に参加する。そしてそこで不思議なセッションに出会い、心を奪われてしまった。
「これは一体何の話なんだ?」
懇親会の席で、そのセッションの発表者に声をかけてみた。すると、逆に質問をされた。その「質問」が、彼の人生を変えることになる。
そして主人公の改善ストーリーは、自分1人でできることから始まり、チームでの取り組みに広がり、他チームを巻き込んだ組織の取り組みへと繋がっていく。
まるで、一本のローソクに灯った炎が、他のローソクに移って、どんどん明るくなっていくようだ。まさに「改善の旅」。KAIZEN JOURNEYだ。
私も、現場で新しいことを始めたり、有志を募って勉強会を開いたり、ささやかではあるが改善の旅を続けているが、本書に書かれていることは、現場で迷ったときに、とても参考になると感じている。やろうと思えば、明日からでも始められるノウハウばかりだ。
しかし実際に、書いてある通りにやろうとすると、なかなか大変なことは事実。「勇気」が必要だからだ。
現場の改善に「正解」は無いだろう。だから迷うし、こんな出すぎたこと自分がやってもいいのだろうか、と悩む。何かを始める勇気、最初の一歩を踏み出す勇気が、なかなか湧いてこないのだ。
著者は言う。
「今の自分の延長線上に何があるのか」を想像したときに、特に変わりようがないと気づいたとき、行動を起こすことに踏み切れました。
あなた自身のこれからを大切に思うなら、行動を起こすしかないのだ。
行動を起こすといっても、何もいきなり会社を辞めろと言っているわけではない。ゴミが落ちていたら拾うというレベルでも良い、と私は思う。大事なことは、あなたが良いと思ったことを、勇気を出してやってみることだ。そうしないと何も始まらない。
もしあなたが、現状を変えよう改善を始めてみたが、上手くいかなくて心が折れそうになったなら、ぜひこの本を読み返してみて欲しい。本書の登場人物たちが、あなたの、たったひとりの挑戦を後押しし、力強く応援してくれるだろう。
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