【書評】日本国紀 百田尚樹
もし、今、日本が無くなってしまったらどうなるだろう?
家や貯金は没収され、家族や友人は行方不明、あなたはどこかの国に連れ去られて奴隷にされる。日本の警察や自衛隊はすでに無い。だから殺されそうになっても誰も助けてくれない。
そんなことありえないと、あなたは思うだろうか?
いや、違う。70年ほど前、これが現実になるところだった。
あなたが今、日本で暮らしていられるのは、私たちの祖父たちが最後まで戦い抜いて、日本を守ったからだ。守りきったからだ。
あなたはその物語を、ご存知だろうか?今まで誰かから聞いたことがあるだろうか?もしくは子供の頃、学校で先生から習ったことがあるだろうか?
無い、と思う。私も無かった。今までの日本の教育は、こんな大事なことを教えてこなかったのだ。
本書は、「永遠の0」「海賊とよばれた男」などのベストセラーを生み出した当代一の作家、百田尚樹氏が書き下ろした500ページにわたる日本の物語だ。
発売前から予約が殺到し、何度も重版がかかるほどの人気で、当然、ランキングも1位を獲得した。私は先日、著者の講演会に参加したが、ホテルの会場は2000人を超える聴衆で満席だった。凄まじい人気だ。
- 第1章 古代〜大和政権誕生
- 第2章飛鳥時代〜平城京
- 第3章平安時代
- 第4章鎌倉幕府〜応仁の乱
- 第5章戦国時代
- 第6章江戸時代
- 第7章幕末〜明治維新
- 第8章明治の夜明け
- 第9章世界に打って出る日本
- 第10章大正から昭和へ
- 第11章大東亜戦争
- 第12章敗戦と占領
- 第13章日本の復興
- 終章 平成
- 編集の言葉
本書は「通史」である。古代から現代まで、2000年以上も続く日本の歴史が綴られている。初めから終わりまで順番に読み進んでいくと、最後は平成時代にたどり着くという形だ。
これはつまり、歴史とは単なる年号の羅列ではなく、過去から現代につながる一本の道という意味だ。今日という日も、明日になれば歴史となる。鎌倉時代や江戸時代と同じ、平成時代のある一日としてだ。
また、500ページのうち、前半が古代から江戸時代で、後半が幕末から明治維新以降の近代となっている。現代に直結する近代史に多くのページが割かれているのが特徴だ。
学生時代の歴史の授業では、時間が足りなくて近代史はほとんどやらなかった記憶がある。しかし、現在、日本や世界で起きている様々な事件は、この辺りの歴史を知らないと、理解が出来ないだろう。そういう意味で、本書の構成は画期的といえるし、そもそも歴史教育はこうあるべきだと思う。
著者は言う。
日本が戦争への道を進まずに済む方法は無かったのか。私たちが歴史を学ぶ理由は実はここにある。特に近現代史を見る時には、その視点が不可欠である。歴史を事実を知るだけの学問と捉えるなら、それを学ぶ意味はない。
全く同感だ。歴史を学ぶのではなく、歴史に学ぶ態度が必要だ。
そして、ところどころに差し込まれた「コラム」には多くの歴史上の人物が活き活きと描かれている。皆、それぞれの時代で自分の役割を果たそうと、もがいているようだ。日本にはこんなに凄い人たちがいたのか、と驚いてしまう。
本書に登場する人たちとあなたは、歴史の上では同等だ。あなたが今日したことは、未来の日本人が見たら、歴史の一コマに映るだろう。だから、歴史を学んで過去の偉人を崇めるだけではなく、あなたがこれから何をしてどう生きるか、を考えるきっかけにしたい。
また、日本に何度も訪れた、存亡の危機についても、映画のワンシーンのように鮮やかに描かれている。
私のように半世紀近く生きている者であれば、70年前に日本が大東亜戦争(太平洋戦争)を戦って負けたことぐらいは知っていると思う。しかし、『負けた』という事実を知っているだけではダメだ。
当時は帝国主義全盛の世界。国連で日本が人権尊重を提案しても却下される時代だ。しかも当時、アジアで独立を保っていたのは、わずかに日本とタイだけ。そんな世界で私たちの祖父たちは戦争に負けてしまったのだ。
しかし、負けた後で、どうやって祖父たちが日本を守ったのかをぜひ知って欲しい。これこそが、現代に生きる私たちが知るべき日本の物語だと思うからだ。
そしてもっとも感銘したのは、敗戦後に昭和天皇がマッカーサーと会談する場面だ。ここでは、昭和天皇がマッカーサーに語ったとされる言葉が紹介されている。この場面は、まさに、天皇陛下と私たち民衆の間の「大御心」と「大御宝」という関係を象徴する場面だ。近代史のクライマックスと言って良い。読みながら何度も目を閉じてしまい、なかなか先に進めなかった。
今までの日本の教育では、これほど大切な物語を教えてこなかった。とても残念だ。
しかし、それを嘆いていても仕方がない。今からでも遅くはない。本書に描かれたたくさんの物語を読んで、祖父たちが懸命に、創り、守ってきた日本の歴史を知って欲しい。
それはすなわち、あなた自身が通って来た道であり、あなたがこれから進む道でもあるからだ。
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