【書評】論語と算盤 渋沢栄一
仕事をする上で、大切にしなければいけないことは何だろう。
売り上げ?利益?もちろんそれは大切だ。仕事なのだから。
でも、もっと他に大切なことがあるはずだ。
題名にある「論語」は「道徳」を表し、「算盤」は「仕事」を表している。仕事には道徳が必要、というメッセージだ。
道徳というと古臭いというイメージを持つ人もいるだろう。しかし、「論語と算盤」は、大リーグで活躍する大谷翔平選手も読んでいたそうだ。野球の世界も上手いだけではダメなのだ。どんな分野の人でも本書から学ぶべきものがあるということだ。
「論語と算盤」の初版は大正5年(1916年)なので100年ほど前の言葉で書かれているが、本書は昭和2年(1927年)刊の版を現代仮名遣い、当用漢字に改めたものなので、私たちでも問題なく読み通せる。
著者は渋沢栄一氏。江戸時代に生まれて、明治、大正の実業界を牽引し昭和に逝去した巨人である。設立に携わった企業は500以上といわれ、王子製紙やキリンビールなど有名な会社も含まれる。
そんな凄い実績を残した渋沢翁は、何を大切にして仕事をしていたのか。
現代に生きる私たちのような普通の人でも、参考になる部分があるはずだ。
私は著者の「論語講義」も読んでおり、著者の論語に対する深い理解に触れているので、それが実業にどのように応用されているのか、以前からとても興味があった。
なので、この本が街の本屋で面陳されているのを見たとき、思わず「あっ!」と声を上げてしまったことを覚えている。そして迷うことなく手にとってレジに直行してしまった。もう10年以上も前のことだが。
【目次】
・処世と信条
・立志と学問
・常識と週間
・仁義と富貴
・理想と迷信
・人格と修養
・算盤と権利
・実業と士業
・教育と情誼
・成敗と運命
私たちエンジニアは、よく営業から「エンジニアは視野が狭くてビジネスがわかっていないからダメだ」という言われ方をする。私も以前は、その言葉に違和感を感じながらも、そんなものかなと思っていたが、本書を読んで、この違和感の理由がわかった。
それは、営業担当の言葉に「道徳」を感じないからだ。会社から与えられたノルマの達成だけを気にしているのがわかるからだ。
私たちエンジニアの仕事は、何か問題を抱えて困っている人がいたら、自分が持っている技術力を使って、それを解決してあげることだ。その結果として売り上げや利益を得られるものだと思う。
しかし、その流れをすっ飛ばして売り上げや利益を前面に出されると違和感を感じる。というか嫌悪感を感じる。著者が言う「士魂商才」に反すると直感するのだろう。
仕事である以上、売り上げと利益が必要なことは当然わかっている。しかしその奥に「道徳的な何か」が欲しいのだ。
とは言っても、何も難しく考えることはない。
著者は言う。
論語は決してむずかしい学理ではない。むずかしいものを読む学者でなければ解らぬというものではない。論語の教えは広く世間に効能があるので、元来解りやすいものであるのを、学者がむずかしくしてしまい、農工商などの与り知るべきものではないというようにしてしまった。これは大なる間違いである
論語は宗教ではない。誰もが日常生活の中で使えるハンドブックなのだ。
そしてそれを仕事の現場に応用することで、人の道から外れることなく、成果を生み出しながら、より良い方向に向かって進んでいけるのであろう。渋沢翁がそれを実践し証明しているではないか。
現代は先行きが見えない不安な時代だ。
だからこそ、論語という千年以上も前から日本人に読み継がれてきた指標を頼りにして、これからの時代を力強く歩んでいきたい。
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